白内障手術で重要になるのが、眼に挿入する人工レンズ選びです。焦点が1か所である単焦点眼内レンズに対し、多焦点眼内レンズは2か所以上の距離にピントを合わせられるレンズです。
この記事では、多焦点眼内レンズで後悔しないために知っておきたいデメリットと、向いていない人の特徴、生活スタイル・焦点距離・予算の3軸で考える選び方を解説します。
多焦点眼内レンズとは、2か所以上の距離にピントを合わせられる医療用眼内レンズです。
レンズ選びを含む白内障治療の全体像は、白内障とは|症状・原因・種類から手術・費用まで眼科専門医が解説で確認できます。
白内障手術で一般的に使用される単焦点眼内レンズは、近方・遠方・中間距離のいずれか1か所にピントを合わせます。白内障手術後は水晶体によるピント調節機能がなくなるため、単焦点眼内レンズでは焦点を合わせた距離以外を見る際に、眼鏡などが必要になります。
一方、多焦点眼内レンズは光を複数の焦点へ振り分ける構造により、近方・遠方・中間距離のうち複数の距離を見やすくします。単焦点眼内レンズと比べて眼鏡への依存を減らすことができますが、見え方には個人差があり、必要に応じて眼鏡を使う場合もあります。
多焦点眼内レンズの基本的な特徴については、多焦点眼内レンズと単焦点眼内レンズの違いでも詳しく解説しています。
多焦点眼内レンズには、単焦点眼内レンズにはない特徴や注意点があります。メリットだけでなく、次の5つのデメリットを理解したうえで、医師と相談して選ぶことが大切です。
単焦点眼内レンズを用いた白内障手術は原則として健康保険が適用されますが、多焦点眼内レンズを選ぶ場合はレンズ代などの自己負担が発生します。
選定療養では、白内障手術に相当する部分は保険診療となり、多焦点眼内レンズを選ぶことで生じる追加費用を自己負担します。選定療養の対象外となるレンズや治療方法を選ぶ場合は自由診療となり、手術費用を含めて全額自己負担です。費用の目安は、後述の比較表と当院の費用・術式一覧をご確認ください。
コントラスト感度とは、明暗の差を見分ける力のことです。多焦点眼内レンズは入ってきた光を複数の焦点へ振り分けるため、単焦点眼内レンズでピントが合った距離と比べて、コントラストが低く感じられることがあります。
薄暗い場所で文字や物の輪郭が見えにくい、色の濃淡が分かりにくいと感じる場合があります。感じ方は眼の状態やレンズの種類によって異なるため、検査結果と普段の生活環境を医師へ伝えることが重要です。
多焦点眼内レンズでは、光の周りに輪が見える「ハロー」や、光がぎらぎらとまぶしく感じる「グレア」が生じることがあります。
特に夜間は、対向車のヘッドライトや街灯の光が強く感じられる場合があります。夜間運転の機会が多い方は、生活への影響を事前に確認しましょう。レンズのなかには、アポダイズ回折型など、ハロー・グレアの軽減を意図した構造のものもあります。詳しい特徴は医師へご相談ください。
多焦点眼内レンズを挿入すると、複数の焦点から得られる情報を脳が選び取る「神経適応」が必要になります。術後しばらくは、コントラストの低下やハロー・グレアなど、これまでと異なる見え方に戸惑うことがあります。
適応にかかる時間や感じ方には個人差があります。違和感や見えにくさが続く場合は自己判断せず、医師の診察を受けてください。眼鏡による補正や追加治療、まれにレンズの入れ替えを含めた対応が検討される場合があります。
多焦点眼内レンズは複数の距離にピントを合わせられますが、すべての距離が同じように見えるわけではありません。近方の焦点距離はレンズごとに異なり、極端に細かい作業や、対応範囲より近い距離を見る際には、老眼鏡などの補助が必要になる可能性もあります。
読書、スマートフォン、裁縫など、日常生活で重視する作業と見る距離を具体的に伝え、希望に合うレンズを選ぶことが大切です。
多焦点眼内レンズの適応は、眼の状態や生活スタイル、希望する見え方を確認したうえで判断します。次の項目に当てはまるだけで直ちに適応外になるわけではありませんが、単焦点眼内レンズを含めて慎重に検討する必要があります。
緑内障、網膜疾患、角膜疾患などがある場合、多焦点眼内レンズによる見え方のメリットを十分に得られないことがあります。病気の種類や進行度によって適応は異なるため、検査で眼の状態を確認します。緑内障との関係については、白内障と緑内障の違い・併発と同時手術も参考にしてください。
多焦点眼内レンズは、眼鏡への依存を減らし裸眼で生活したい方にとって有力な選択肢です。一方、特定の距離では眼鏡を使っても問題ない方は、単焦点眼内レンズでも希望する見え方を得られる場合があります。費用や見え方の質を含めて比較しましょう。
職業ドライバーなど夜間運転の機会が多い方は、ハロー・グレアが仕事や安全確認に影響する可能性があります。運転する時間帯や頻度を医師へ伝え、レンズの種類や単焦点眼内レンズも含めて検討してください。
多焦点眼内レンズでは、脳が新しい見え方に慣れるまで違和感を覚えることがあります。術後早期から特定の距離で非常に鮮明な見え方を重視する方や、見え方の変化への不安が強い方は、単焦点眼内レンズも選択肢になります。
年齢だけで多焦点眼内レンズの適否を決めることはできません。ただし、眼の状態、認知機能、生活環境などによっては新しい見え方への適応に時間がかかる可能性があります。年齢を理由に自己判断せず、検査と診察を受けてください。
多焦点眼内レンズには、デメリットだけでなく、生活の利便性につながるメリットがあります。
多焦点眼内レンズは、近方と遠方、または中間距離を含む複数の距離に焦点を合わせるよう設計されています。白内障によるかすみを改善しながら、老視による近方の見えにくさを補う選択肢になります。
多焦点眼内レンズには、2焦点、3焦点、焦点深度拡張型(EDOF)など、さまざまな設計があります。遠方・中間・近方のどこを重視するか、ハロー・グレアへの配慮、乱視矯正の必要性などに応じて検討できます。
多焦点眼内レンズを選ぶことで、日常生活における眼鏡への依存を減らし裸眼で生活ができるでしょう。ただし、細かい作業や夜間運転などでは眼鏡が必要になる場合もあり、完全に眼鏡が不要になることを保証するものではありません。
多焦点眼内レンズは、術後に眼鏡への依存を減らし、複数の距離を裸眼で見たい方に向いています。生活スタイル別には、次のような希望が選択の目安になります。
乱視矯正機能を備えたレンズもあります。最終的な適応とレンズの種類は、検査結果と希望する見え方をもとに医師と相談して決めます。
多焦点眼内レンズを選ぶ前には、眼の状態を詳しく検査し、希望する見え方や生活スタイルを確認します。

多焦点眼内レンズは、生活スタイル・焦点距離・予算の3軸で総合的に考えます。どれか1つだけで決めるのではなく、検査と問診を通じて優先順位を整理することが、後悔しない選択につながります。
対応する距離や、近方にピントが合う距離はレンズごとに異なります。普段よく見る物までの距離を測っておくと、相談時の参考になります。
日常生活で何を裸眼で見たいかを具体的に整理しましょう。運転や外出が多い方は遠方、デスクワークが中心の方は中間距離、読書や細かい作業が多い方は近方の見え方が選択のポイントになります。夜間運転の有無も重要です。
選定療養の対象レンズでは、白内障手術に相当する部分に保険が適用され、レンズ選択による追加費用を自己負担します。自由診療では費用が全額自己負担になる一方、選択肢となるレンズや治療方法の範囲が異なります。費用と選択肢を確認し、無理のない範囲で検討してください。
単焦点眼内レンズ、多焦点眼内レンズの選定療養、自由診療について、当院の公式費用ページに掲載している区分と費用をまとめました。
| 種類・区分 | 焦点と見え方 | 費用(片眼・税込) | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 単焦点眼内レンズ (保険診療) | 遠方・中間・近方のうち1か所 | 健康保険適用 ※自己負担割合などにより異なります | ピントを合わせた距離は見え方の質を得やすい一方、ほかの距離では眼鏡が必要になります。 |
| 多焦点眼内レンズ (選定療養) | レンズにより2焦点・3焦点・EDOFなど | 398,000円 ※別途手術代 ※乱視用は55,000円追加 | 手術に相当する部分は保険診療で、多焦点レンズの追加費用を自己負担します。 |
| レーザー白内障手術 (自由診療) | 選択するレンズにより異なります | 968,000円 ※乱視用は110,000円追加 | 全額自己負担です。選べるレンズや治療方法については検査後にご案内します。 |
料金は変更される場合があります。最新情報は費用・術式一覧をご確認ください。
当院で取り扱っている多焦点眼内レンズの一例です。取り扱い状況や適応は眼の状態によって異なります。
| 焦点数 | レンズの一例 | 区分 |
|---|---|---|
| 5焦点 | INTENSITY(インテンシティ) | 自由診療 |
| 3焦点 | AcrySof IQ PanOptix Trifocal(パンオプティクス) | 選定療養 |
| 3焦点 | FineVision(ファインビジョン) | 自由診療 |
| 2焦点 | ACTIVE FOCUS(アクティブフォーカス) | 選定療養 |
| 2焦点 | AcrySof IQ ReSTOR(レストア) | 選定療養 |
| 2焦点 | LENTIS Mplus(レンティス エムプラス) | 自由診療 |
| 2焦点 | LENTIS MplusX(レンティス エムプラスエックス) | 自由診療 |
| 2焦点・EDOF | FEMTIS Comfort(フェムティス コンフォート) | 自由診療 |
| 2焦点 | TECNIS MULTIFOCAL(テクニス マルチフォーカル) | 選定療養 |
| 焦点深度拡張型 | TECNIS Symfony(テクニス シンフォニー) | 選定療養 |
| 連続焦点・EDOF | TECNIS Synergy(テクニス シナジー) | 選定療養 |
レンズの構造や取り扱いの詳細は、多焦点眼内レンズの種類とメーカーをご覧ください。
単焦点眼内レンズとの大きな違いは、焦点の数です。単焦点眼内レンズは選んだ1か所の距離にピントを合わせる一方、それ以外の距離を見る際は眼鏡が必要になります。多焦点眼内レンズは複数の距離に焦点を振り分け、眼鏡への依存を減らすことを目指します。
遠方にピントを合わせた単焦点眼内レンズの見え方のイメージです。

遠方と近方など、2つの距離に焦点を合わせる2焦点レンズの見え方のイメージです。

近方・中間・遠方に焦点を合わせる3焦点レンズの見え方のイメージです。

見え方はイメージであり、実際の感じ方には個人差があります。より詳しい比較は、白内障の治療で使用される眼内レンズをご覧ください。
多焦点眼内レンズを用いた白内障手術には、選定療養と自由診療があります。
選定療養では、白内障手術に相当する部分は保険診療となり、眼鏡装用率の軽減を目的とする多焦点眼内レンズの追加費用などを自己負担します。当院の掲載料金は片眼398,000円(税込)で、別途手術代が必要です。
自由診療では、手術費用とレンズ費用を含めて全額自己負担です。当院のレーザー白内障手術の掲載料金は片眼968,000円(税込)です。
対象となるレンズ、乱視用レンズの追加費用、最新の料金は、選定療養とはおよび費用・術式一覧をご確認ください。
どちらにもメリットとデメリットがあります。単焦点眼内レンズは焦点が1つで、ピントを合わせた距離の見え方の質を得やすい一方、ほかの距離では眼鏡が必要です。多焦点眼内レンズは複数の距離を見やすくし、眼鏡への依存を減らすことができますが、コントラスト低下やハロー・グレアが生じる場合があります。検査結果と生活スタイル、希望する見え方をもとに医師と相談して選びます。
あります。白内障手術前とレンズ挿入後では見え方が変わり、コントラストの低下やハロー・グレアに戸惑う方もいます。多くは時間とともに慣れていきますが、感じ方や適応にかかる時間には個人差があります。違和感や見えにくさが続く場合は医師へご相談ください。
白内障手術の数か月から数年後に、水晶体を包んでいた袋の後ろ側が濁る「後発白内障」が起こることがあります。眼内レンズ自体が濁るわけではありません。視界のかすみや視力低下の原因はほかにもあるため、症状がある場合は眼科を受診してください。
後発白内障で治療が必要な場合は、一般にYAGレーザーで濁った後嚢に穴を開ける処置を行います。通常は眼内レンズを入れ替える必要はありません。
多焦点眼内レンズの費用は、原則として通常の保険診療だけではまかなわれません。ただし、対象レンズを選ぶ場合は選定療養を利用でき、白内障手術に相当する部分は保険診療、多焦点眼内レンズの追加費用などは自己負担となります。対象外のレンズや治療方法を選ぶ場合は自由診療です。
コントラストの低下、ハロー・グレア、脳が新しい見え方に慣れるまでの違和感、手元の見え方の限界などが、術後の不満につながることがあります。デメリットと向いていない人の特徴を理解し、希望する距離や生活スタイルを医師へ具体的に伝えることが大切です。
多焦点眼内レンズの挿入により、老眼の根本的な原因である水晶体の硬化による機能不全は取り除かれ、近くにも遠くにもピントが合いやすくなります。ただし、すべての状況で眼鏡が不要になるとは限りません。白内障がなく老視への対応を検討している方は、老眼対応の眼内コンタクトレンズ「IPCL」もご覧ください。
生活スタイル、重視する焦点距離、予算の3軸を総合的に考えることです。特に、日常生活でどの距離を最もよく見るか、夜間運転があるか、眼鏡をどの程度減らしたいかを整理すると、選択肢を絞りやすくなります。
単焦点眼内レンズを用いた白内障手術は原則として健康保険が適用され、自己負担額は年齢、所得、負担割合、手術内容などによって異なります。当院の多焦点眼内レンズは、選定療養が片眼398,000円(税込)に別途手術代、レーザー白内障手術が片眼968,000円(税込)です。料金は変更される場合があるため、最新情報は費用・術式一覧をご確認ください。

監修:岡 義隆
医療法人先進会 理事長 / 先進会眼科 理事長
専門分野白内障手術・屈折矯正手術
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