お子様の視力が思ったより悪くて焦っていますか? <後編>
近視を予防する
「近視を予防する」と聞いても、あまり馴染みがないですよね。予防する、という概念が出てきているのがこの数年だからです。
前編のコラムでは近視のこと、近視がひどくなると強度近視や病的近視になることについて解説しました。後編では「近視を予防すること」「今よりも近視を悪くしないこと」「その方法としてのオルソケラトロジー」について解説していきます。
強度近視、病的近視にならないように今からできること
外遊びの時間を増やす
強度近視、病的近視の発症を防ぐには、目の負担となる近くの作業(読書、勉学、ゲーム、テレビ、スマホ、パソコン画面を長時間みること)の時間を減らし、眼軸(眼球の軸)がのびないように心がけることが必要です。そのためにも近くの作業を長時間続けるときには30分〜60分に一度は遠くを見て休憩することが大切です。
そして、屋外での活動を増やすことが重要です。屋外で日光を浴びる時間の長い子供は(週に11時間以上明るさ1000ルクス以上の光を浴びる)、近視を発症する率が低いとされています。
(Evolution of the Prevalence of Myopia among Taiwanese Schoolchildren)
実際、シンガポールでは、オーストラリアに住む子供と比較した際に近視率がシンガポールにおいて10倍であるというデータがあり、その原因のひとつとして「屋外活動時間の差」があることが考えられています。
調査の段階で、シンガポールの子供たちは平均して週に3時間しか屋外活動をしなかったのに対し、オーストラリアに住む子供たちは週に14時間も活動していたのです。このデータから、シンガポール政府は子供をもつ親に呼びかけて、週末に公園で遊ぶように促したり、屋外でのイベントを企画したりして対策を始めています。
(Ministry of Health, Singapore)
低濃度アトロピン点眼薬を使用する
最近では、アトロピン点眼を行うことで近視進行を抑制できる可能性も示されています。通常の濃度のアトロピン点眼は、まぶしさ、眼の痛み、近くが見えづらい、アレルギー性結膜炎、皮膚炎などの副作用もあるため、長期使用が困難でした。
しかし、濃度を希釈し副作用を少なくした低濃度アトロピン点眼によって、近視の進行が抑制され、さらにその効果が点眼中止後も効果が持続することがわかってきています。2021年5月現在、日本で承認を受けている低濃度アトロピン薬剤はなく、自由診療での扱いです。ご希望の患者様はお声がけください。
点眼治療を2年間継続したアトロピン0.01%の効能・効果及び安全性についてシンガポール国立眼科センターより報告されています。
▶︎近視の進行を平均40%軽減させる(初期報告では60%との報告もあり)
▶︎アレルギー性結膜炎及び皮膚炎の報告はない
▶︎眼圧には影響がない
▶︎点眼治療が終わった後に調節機能が低下することはない
▶︎瞳孔が開き続けてしまうことはない
▶︎網膜機能に影響を与えることはない
(Ophthalmology. 2016 Feb;123(2):391-9)
年に一度の検査を受ける
定期的な通院や検査は疎かにしがちです。気付かぬ間に度数が悪くなっていたり、ぼやけた視野に慣れてしまう、そして近視についての意識が弱くなってしまわぬように、通院を続け、しっかり検査を受け、適切な矯正をすることが必要です。特に成長期の子供は、成長とともに眼鏡が合わなくなることがありますので、1年に1度は矯正視力の検査をし、自分にあった適切な眼鏡を掛けるとよいでしょう。
進行を遅らせる治療法としてのオルソケラトロジー
オルソケラトロジー
さて、オルソケラトロジーの話です。オルソレンズなどとも呼ばれていますね。特殊な加工がされているコンタクトレンズを、寝る前に装着しそのまま眠ります。寝ている間に、角膜の形を変形させ、正常な屈折を得ることができ、視力を回復させます。矯正効果は持続的なものではなく、装用をやめると角膜が元の形に戻るので視力も元の状態に戻ります。
オルソケラトロジーのレンズは夜間就寝用に設計されており、酸素透過性が非常に高い素材を使用しています。このオルソケラトロジーは日中は裸眼で生活ができることに加えて、周辺網膜のピントのズレが起こりにくくなるため眼軸を延ばすことなく、結果、特に子供の近視進行を抑制するという報告が多数あります。
オルソケラトロジーのガイドライン
初代のオルソケラトロジーは、米国では1960年代に紹介されていますので、研究の歴史は長きに渡って蓄積されています。その後、安全性やデザインが改良されてきました。現在広く普及している、視力の安定性が高く、酸素透過性の良い安全性の高い第3世代のレンズは、2002年5月にFDAに初承認され、日本では2009年に初承認されました。
日本では、2017年12月にガイドラインが第2版に改定されました。新しいガイドラインでは、初めて20歳以下の装用に関して明記され、「未成年には慎重処方とする」との内容に改定されました。
旧ガイドライン下での2016年の日本眼科医会によるアンケート調査での治療患者の年齢別構成は、
▶︎学童(12歳以下)25%
▶︎13歳~19歳41%
▶︎成人34%
で未成年が66%でした。
現ガイドライン下での2019年の調査では、
▶︎学童36%
▶︎13歳~19歳40%
▶︎成人25%
と未成年が76%に増加しています。
ガイドラインでは、近視度数が-4.00D(ジオプトリーと言って屈折度数の単位です)までが推奨されていますので、近視が強くなる前に治療を開始した方が効果が期待できます。実際には特殊なレンズを使用すれば、-6.00D程度までの近視改善が可能です。
近視進行抑制効果
2004年頃から、
現在、エビデンスが各方より積み上げられているところです。
原理と安全性
リバースジオメトリーレンズの構造を持っており、
コンタクトレンズを処方されたことがある方であれば、コンタクトレンズをつけたまま寝てはいけない!と指導されましたよね。筆者もその世代です。オルソケラトロジーのレンズは酸素透過性が非常に高く、夜間の装用についてもしっかり安全性が検証されております。角膜上皮に可逆性に作用し近視を改善させるので、
何よりも厚生省からも認可されており、上に紹介した通り、国際的にも日本の国内でも多くの研究が行われているので、管理と装用がしっかりできれば安全性が高い治療と言えます。
手術をせずに近視を改善させる唯一の方法ですが、安全性の高い承認レンズを使用し、適切なケアと管理、眼合併症や副作用の有無の確認等を定期的に行い、レンズを正しく安全に使用することが大切です。
まとめ
前編と後編に渡って、近視について、オルソケラトロジーついてを解説いたしました。後半は研究や報告についての内容も多くなり、少し難しかったでしょうか。
強度近視はあらゆる眼疾患のもとの一つとも言えます。それが子供のころからの近視がもとであり、進行は遅らせることができる、ということが近年確からしいこととして分かってきました。
とは言ってもスマートフォンが普及し、学校ではタブレットが配布され、ますます私たちの生活はデジタルとあらゆる近業に囲まれます。そんな社会ではありますが予防できる術が分かっているからには、ぜひ予防いただきたいと先進会眼科一同、願っております。先進会眼科の医師陣の子供たちもオルソケラトロジーをはじめとする近視進行抑制で通っている子もおります。
そして多くの患者様を診させていただいてる眼科として、世界の近視パンデミックの抑制の一助になればと思っております。
このコラムを読み終わったら早速、遠くを見て目を休憩させましょう!
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日本眼科学会認定眼科専門医
医学博士