こんな見え方の場合は網膜色素変性症かも?具体的な症状や原因、治療法を解説
網膜色素変性症は、網膜の異常によってゆっくりと視力が落ちる遺伝性の病気です。「最近、ものが見えにくくなったような気がする」「暗いところでものが見えない」などの症状があれば、網膜色素変性症の可能性があります。
今回は、網膜色素変性症について、そもそもどんな病気なのか、どんな見え方になるのか、また病気の原因や治療法などについてわかりやすくまとめました。
網膜色素変性症とは
網膜色素変性症は、少しずつ視野が狭くなり、視力が低下する遺伝性の病気です。進行に個人差が大きく、徐々に進行して失明することもあれば、死ぬまで良好な視力を保つこともあります。
そもそも網膜とは、眼がとらえた画像を脳に送る組織です。眼底一面に薄く広がる膜状の組織で、光や色を感じる細胞(視細胞:しさいぼう)とそれにつながる神経繊維、視神経に栄養を与える網膜色素上皮細胞、さらにその外側にあり細かい血管が豊富にある脈絡膜(みゃくらくまく)からできています。視細胞はさらに、網膜の端っこの方に多く、わずかな光を感知し暗いところで主に働く杆体(かんたい)細胞と、網膜の中心部に多く、明るい場所で主に働き色を見分ける錐体(すいたい)細胞に分けられます。
網膜色素変性症になると視細胞が変性し、働かなくなります。視細胞が働かなくなった部分は色や光を感じ取れなくなり、画像が見えなくなります。
網膜に異常をきたす難病指定の病気
網膜色素変性症は、網膜に異常をきたす遺伝性の病気です。2015年1月1日より国が定める110疾病の指定難病の一つに認定されました。
失明の原因では上位に
網膜色素変性症は、失明の原因となる病気です。生まれつき目が見えない先天盲の原因の第1位は網膜色素変性症です。また、2017年に行われた全国調査の結果、日本における中途失明の原因のうち、緑内障と糖尿病網膜症に次いで多かったのが、網膜色素変性症でした※。以前多かった糖尿病網膜症は、診断や治療の進歩により減少傾向にあります。
網膜色素変性症を発症した人の見え方
網膜色素変性症で最初に現れる主な症状は、暗いところでものが見えにくくなる「夜盲(やもう)」です。その後、視野が狭くなって見えない部分が出てくる「視野狭窄(しやきょうさく)」が少しずつ進行しますが、最近は夜でも明るい所が多いので、最初に視野狭窄に気がつく方も増えています。
症状の進み方は視細胞の障害の程度を表しています。最初は周辺部に多くある杆体細胞から傷害されるため、暗いところで光を感じる能力が落ち、周辺部が見えにくくなるのです。病気の進行とともに中心部にある錐体細胞も障害されるため、色を感じる能力も落ち、視力が下がります。
視野が狭くなる
網膜色素変性症の視野狭窄の見え方は、中心部は見えるが周辺部が見えないことが特徴です。例えば足元が視界に入らないためよく転ぶ、落としたものがなかなか見つからない、歩いていて人にぶつかりやすくなる、というようなことが起こります。
最初に障害されるのは中間周辺部の視野であることが多く、少しずつ周辺に広がっていきます。進行すると、中心部しか見えないことが多いです。視野狭窄の多くは左右対称です。
暗い場所で見えにくくなる
網膜色素変性症の人は、暗いところに行くと物が非常に見えにくくなります。場合によっては全く見えていないこともあります。
普通の人は、暗いところでもわずかな明るさを感知して、その明るさで物が見えるように見え方を調節することができます(暗順応:あんじゅんのう)。ところが夜盲の人はこの調節機能が働かない(暗順応障害)ため、光の量が足りないところでは物が見えなくなるのです。
網膜色素変性症が進行した場合の症状
網膜色素変性症が進行すると、視力低下に加えて色覚異常や光視症(こうししょう:視野の一部に一瞬光が走ること)、羞明(しゅうめい:明るい場所で辛いほどの眩しさを感じること)が見られることがあります。ただし症状の進行には大きな個人差があり、幼少時にすでに発病している重症の場合は40代くらいまでに失明することもありますが、80歳になっても日常生活に困らない程度の視力を保っている人も数多くいます。
進行すると視力低下や色覚異常も
視力障害の現れかたはさまざまです。眼のかすみ感、コントラストの弱い文字や線・図形が読み取れないなどの他、物が欠けたり歪んだりして見えることがあります。
典型的な網膜色素変性症の場合は,初期には杆体細胞のみが侵されるため、視力障害はみられないことが多いです。病気の進行に伴い,錐体細胞の変性が生じてくるとともに視力障害や色覚異常が出現します。
色覚異常は青黄色異常(赤と緑はわかるが青と黄色がわからない)が高い確率で見られます。また外界と関係なく、色のついた光や点滅する光のようなものを感じることがあります。これらの症状は一過性のものもあれば,ずっと続く場合もあります。
白内障や黄斑浮腫を併発する可能性もある
網膜色素変性症の患者さんは、白内障や黄斑浮腫などを併発する可能性があります。
白内障を合併している場合は、白内障を治療することにより視力の改善が見込めることがあります。治療方法は通常の白内障と同様です。
黄斑浮腫は10〜40%と報告されていますが、どうして起こるかははっきりわかっていません。黄斑部の合併症を放置すると視力に大きな影響が出るため、早めに見つけて治療することが大切です。
網膜色素変性症の原因
網膜色素変性症の原因は、遺伝子異常です。遺伝子異常によって網膜の視細胞及び網膜色素上皮細胞が広い範囲で変性します。
視細胞などの遺伝子の異常が原因
網膜色素変性症と関連する遺伝子は、現在60種以上※報告されています。さらに1つの遺伝子の中でも複数の変異が原因として同定されているため,総数では3,000種以上の遺伝子変異※が報告されています。
遺伝が確認できる患者さんは全体の約50%
明らかな遺伝が確認できる患者さんは全体の50%です。常染色体優性遺伝が15〜17%,常染色体劣性が25〜30%、X連鎖性がXL:0.5〜1.6%程度※とされていますが、家系内に他の発症者が確認できない孤発例も半数程度存在します。
網膜色素変性症の検査方法
問診で夜盲症または家族歴がある場合は、網膜色素変性症を疑い検査を行います。一般的な視力検査に加えて眼底検査、視野検査、暗順応検索、網膜電図などを行います。その他、必要に応じて眼底自発蛍光所見や光干渉断層計(OCT)などを確認します。
網膜色素変性症と確定診断するには、他の原因で起こる網膜症(梅毒,風疹,フェノチアジン系薬剤またはクロロキンの毒性,および眼以外のがんに伴う網膜症など)ではないことを確認する必要があります。
遺伝形式を確定するために必要と思われる場合は,血の繋がった家族の診察・検査も行うことがあります。
網膜色素変性症の治療法
網膜色素変性症は、2021年8月現在では治療法が確立されていない病気です。遺伝子治療をはじめ、人工網膜、網膜再生など、新しい治療法についての研究が急ピッチで進んでいますが、実用化されたものはありません。
現在のところ、網膜色素変性症に対する主な治療は、進行を遅らせる対症療法を行うこと、また合併する白内障や黄斑浮腫、緑内障などに対し治療を行うこととなっています。
進行を遅らせる対処療法を行う
対症療法として、遮光眼鏡(光をカットするレンズ)の使用、ビタミン剤や循環改善薬の内服、ロービジョンケア(低視力者用に開発された各種補助器具の使用)などが行われています。
遮光眼鏡は、眩しく感じやすい500nm以下の短波長光(紫外線+青色光線)をカットするレンズを使ったメガネです。強い光をカットすることは網膜を守るという意味で有効ですし、眩しさがカットされるので物の見えやすさも改善します。
ビタミンAは、明るさ・暗さの感受性を保つ働きがあるとされています。網膜色素変性症の進行を遅らせたという報告もありますが、全ての方に効果があるわけではないようです。
循環改善薬は神経細胞への血流を改善させる効果が期待されています。視野が少し広がる、または明るくなる方がいます。
サプリメントや内服薬についてはどれもはっきりとした効果が認められているわけではないので、服用することによるメリットとデメリットを担当医とよく相談の上で使用することをお勧めします。
遺伝子治療や網膜移植などが期待されている
網膜色素変性症に対する遺伝子治療や網膜移植など、新しい治療が期待されています。これらの治療はまだ実用化されておらず誰でも受けられるものというわけではありませんが、研究段階で良い成果が上がっているものが複数あります。
遺伝子治療については、アメリカ合衆国とイギリスにおいて、RPE65遺伝子の変化で起こる網膜色素変性症への遺伝子治療が進められています。まだ安全性を確認している段階ですが、効果が期待できそうな報告が上がっています。日本では九州大学眼科が中心となって、網膜色素変性症に関する遺伝子治療の治験が始まっています。
人工網膜についても安全性と効果を確かめる試験が行われており、実用化へ向けた取り組みが始まっています。
網膜色素変性症を発症した際の対処法
網膜色素変性症は、確実な治療法がない反面、進行が非常に遅い病気です。診断を受けたからといって、不安に陥ることはありません。眼科を定期的に受診して検査を受けることで自分の進行速度を把握すること、進行速度が速そうな場合は物が見えにくくなる将来に向けて準備をすること、見えにくさが進行し日常生活に支障が出る場合は各種補助器具を用いて、残された視力や視野を有効に使い生活を工夫することが大切です。
病気の進行度を把握しておく
網膜色素変性症は進行性の病気ですが、進行の早さには非常に大きな個人差があります。30代でほとんど目が見えなくなる方もいれば、日常生活に支障のない視力を死ぬまで保つ方もいます。定期的に眼科を受診し、病気の進行度や重症度を診断してもらうとよいでしょう。
また網膜色素変性症は、白内障や緑内障など他の眼の病気を併発しやすいことが知られています。これらは治療によって治ることが多い病気ですので、きちんと治療を受けることによって視力や視野が改善することがあります。
生活面での工夫や準備をしておく
物が見えにくいことで日常生活に支障が出る場合は、ロービジョンケアを受けることで、以前とほぼ変わりない生活を送ることができます。例えば視力の低下に対しては、拡大読書器や拡大鏡・タブレット端末の機能の利用など、光が眩しい羞明に対しては、遮光眼鏡が効果的なことがあります。見えるうちから使い方に慣れておくと良いでしょう。
網膜色素変性症は特定疾患に指定されていることから、病状により医療費が軽減される場合があります。視覚障害が進行して失明に近くなった場合は、障害認定により各種公的サービスを利用できることがあります。
まとめ
以上、網膜色素変性症について、そもそもどんな病気なのか、どんな見え方になるのか、また病気の原因や治療法などについてまとめました。暗いところで物が見にくい、言われてみれば視野の端の方が見えていないなど、心当たりのある方は、一度眼科を受診してみると良いでしょう。
先進会眼科でも精密検査が可能です。現在考えうる治療のオプションがありますので、気になる症状がある方はご相談ください。
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日本眼科学会認定眼科専門医
日本白内障屈折矯正手術学会 理事
先進会眼科 理事長
略歴
聖マリア病院 眼科 外来医長
福岡大学筑紫病院 眼科
村上華林堂病院 眼科
福岡大学病院 救急救命センター
福岡大学病院 眼科
愛知医科大学卒業
福岡県立嘉穂高校卒業
医師資格番号
医師免許番号 381664
保険医登録番号 福医29357