円錐角膜では障害者手帳は交付されない理由|定義や受けられる支援を紹介
「円錐角膜と診断されたけど、障害者手帳の交付を断られた」というお声をよく耳にします。
本記事では、そもそも障害者手帳とは何か、障害の定義と視力・視野の等級、円錐角膜で障害者手帳は交付されるのかなどについて解説します。
また、円錐角膜になった際に受けられる支援サービスについても簡単にまとめました。
障害者手帳とは
障害者手帳とは、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の3種の手帳の総称です。制度の根拠となる法律等はそれぞれ異なりますが、いずれの手帳も障害者総合支援法の対象となり、医療費の軽減、税金の軽減、交通機関の割引、補装具の交付、障害者雇用での就労など様々なサービスを受けることができます。また、自治体や事業者が独自に提供するサービスを受けられることもあります。
このうち円錐角膜の方に関係があるのが、身体障害者手帳です。身体の機能に一定以上の障害があると認められた方に交付される手帳であり、身体障害者福祉法に定める身体上の障害がある方に対して、都道府県知事、指定都市市長又は中核市市長が交付するものです。
身体障害者手帳の発行は障害が持続することが前提となっています。下で述べる身体障害者障害程度等級表に当てはまる状態であっても、障害が永続しないと考えられる場合については認められないこともあります。
障害の定義
障害とは、障害者基本法によれば「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害」と定義されています。
そして障害者とは、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」と定義されています。
社会的障壁とは「障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの」のことを言います。
視力・視野の等級
障害の程度については、「身体障害者障害程度等級表」に定められています(身体障害者福祉法施行規則別表第5号)。障害の種類別に、程度が重たい側から1級から6級の等級が定められています。
視力・視野の等級に関しては、最も障害の程度が軽い6級でも「視力の良い方の眼の視力が0.3以上0.6以下かつ他方の眼の視力が0.02以下のもの」という厳しい基準が設けられています。ただし実際の認定に関しては都道府県ごとに若干基準が異なることがあります。
「身体障害者障害程度等級表」について、詳しくは厚生労働省の以下のサイトをご参照ください。
円錐角膜とは
円錐角膜とは、黒目の上にある角膜の中央部分が薄くなり、角膜が前の方に飛び出る生まれつきの病気です。
角膜は、5層構造(角膜上皮細胞・ボーマン膜・角膜実質・デスメ膜・角膜内皮細胞)の透明な膜です。正常な角膜の厚さはおよそ0.5ミリ程度です。眼の中にあるコラーゲンを溶かす酵素(コラゲナーゼ)が、何らかの原因で角膜の繊維(コラーゲン)を溶かしてしまうことで、角膜が薄くなります。薄くなった角膜が中からの圧力に負けて前方へ出っ張ることで、角膜の形が正しいアーチ型から歪んでしまい、視力低下などの症状が現れます。
思春期に発症することが多く、症状は10年以上かけてゆっくりと進行していきます。30歳を過ぎる頃から進行が止まることが多いといわれていますが、これには個人差があり、40歳前後まで症状が進行することもよくあります。 日本での発病率は、約1万人に1人程度です。男女比はおよそ3:1と男性に多い病気です。
円錐角膜については下記のページもご覧ください。
円錐角膜の原因
円錐角膜の原因はよくわかっていません。家族内で発症することもありますが、遺伝性であるケースは約6%程度といわれています。 特定の結合組織疾患(エーラス-ダンロス症候群,マルファン症候群,骨形成不全症など)やダウン症候群、視覚異常を伴う先天性疾患(レーベル遺伝性視神経症,未熟児網膜症 ,無虹彩症など)、閉塞性睡眠時無呼吸症候群などとの合併が知られています。思春期以降の発症が多いことから、性ホルモンと関係があるという説も有力です。
円錐角膜と関係が深いのが、アトピー性皮膚炎を含むアトピー性疾患です。アトピー性皮膚炎の患者さんの0.5%程度に円錐角膜が見られます。一般の人と比べ10倍以上高い発症率です。目をよくこするなどの物理的な刺激も、円錐角膜の原因となるとされています。
円錐角膜の症状
円錐角膜の主な症状は、乱視です。角膜がゆがむことで光が正しくない方向へ屈折し、乱視となります。その結果、視力が低下していったり、ものが歪んで見えたりします。症状は、10年以上かけてゆっくりと進行していきます。症状は両方の目に等しく出るというわけではなく、左右差があることも多いです。
円錐角膜による乱視は、角膜が歪んだ円錐形となるために光の屈折が大きく乱れることによって起こる不正乱視であり、眼鏡では完全に矯正することができません。中等症くらいまでは特殊なハードコンタクトレンズでの視力回復が可能ですが、重度になると、ハードコンタクトレンズを使っても視力の回復が難しくなります。
初期
「最近太陽の光や照明の光がまぶしく感じる」「見え方がどんどん悪くなっている」というのが円錐角膜の初期の代表的な症状です。「物が二重に見える」と訴える方もおられます。いずれも一般的な視力低下の症状ですので、通常の屈折異常(近視・乱視・遠視)と円錐角膜の症状の違いを自覚症状だけでみるのは難しいです。
中期以降
病気が進行すると、視力がさらに落ちるとともに、眼鏡やコンタクトレンズで視力を回復することが難しくなります。角膜の内側に少しずつ裂け目ができて傷あと(瘢痕:はんこん)が残り、角膜から入る光がさらに複雑に曲がってしまうからです。
病気がさらに進み角膜の突出が強くなると、急性水腫という合併症を引き起こすこともあります。急性水腫とは、角膜のデスメ膜が破れ、中に水が溜まることで、角膜が突然白く濁る状態です。症状は、急激な視力低下です。
また、角膜の中央部分が薄くなっていくことで、角膜拡張症(ケラトエクタジア)を合併することがあります。レーシック後などにもまれに見られるものですが、角膜が薄くなりすぎて眼圧に耐えられなくなることで変形し、角膜の後面が前に突出して乱視や強度近視となります。
コンタクトレンズ以外の治療法では、自費診療にはなりますが、角膜内リング、角膜クロスリンキング、フェムトレーザー角膜移植といった選択肢があります。
角膜内リングは2つのリングを用いて角膜の形状を矯正する方法です。
注意すべきこととしては、
- 乱視や近視を減らすことが期待できても裸眼で生活できるようにはならないこと
- 術後視力が安定するまで約1か月かかること
- 夜間光が滲んで見えること、見え方の質の低下、感染症、眼圧上昇、乱視の可能性があること
挿入したリングで矯正不足や痛みがある場合はリングの除去や交換をすることもあり、眼を擦ることでリングの位置が移動する合併症が起こる可能性もあります。
角膜に個人差があるため、角膜内リングの効果にも個人差があります。
角膜クロスリンキングは、リボフラビン点眼と長波長紫外線を用いた方法です。
角膜内リングに似ている点もありますが、術後に注意すべきことは下記の通りです。
- 手術後1週間ほどの異物感、しみる感じ、痛み、ぼやける、見えにくいこと
- 光が少しにじんで見えることやまぶしいこと、見え方が変わること、術後1ヵ月ぐらい近視化した後に遠視化すること、感染症、乱視、矯正視力の低下、角膜内皮細胞の障害、角膜混濁などの可能性
- 視力低下や見え方の歪みの改善は難しいこと
アトピーやアレルギー体質などで目を頻繁にこする癖のある方は、角膜クロスリンキングを施行しても円錐角膜が進行することがあり、注意が必要です。
進行予防効果は期待できますが、中には再進行や無効例の報告があります。
フェムトレーザー角膜移植はレーザーを用いた角膜移植のことで、国内ドナーであれば保険適用、海外ドナーなら保険適用外となります。
医療機関によっては採用している方法が一方だけであることもあり、また、どちらも特徴が異なりますので、受ける際は医師に詳しい説明を受けましょう。
注意点としては、多少の乱視、拒絶反応、眼圧上昇や緑内障、眼底疾患(眼内出血・眼底出血など)、感染症、角膜潰瘍、角膜上皮欠損、耐性菌による疾患、移植片不全、免疫抑制剤の副作用、抜糸後の癒着が不十分なこと、眼球の打撲等による創口が開くこと等の可能性があります。
もし角膜移植を受ける場合は、信頼できる医師から詳しい説明を受けましょう。
上記に限らず、眼の手術全般に言えることですが、失明につながる可能性もゼロとは言い切れません。
先進会眼科における円錐角膜治療の費用は以下の通りとなっております。
- 角膜クロスリンキング
片眼:165,000円(税込) 両眼:330,000円(税込) - 角膜内リング
片眼:539,000円(税込) 両眼:1,078,000円(税込)
角膜内リングは発注時に片眼につき前金5万円をお預かりします。発注後のキャンセルはできません。 - フェムトレーザー角膜移植
片眼:1,100,000円(税込) 両眼:2,200,000円(税込)
円錐角膜や費用については下記のページもご覧ください。
円錐角膜のみの症状で障害者手帳を交付されることは少ない
残念ながら、円錐角膜のみの症状で障害者手帳を交付されることはほとんどありません。なぜなら、円錐角膜のみでは身体障害者等級表の視力・視野障害の等級判定の基準を満たすほど視力・視野が悪くなることがほとんどないからです。
ただし、身体障害者等級表にて他の部位の障害がある場合は、併合されて身体障害者手帳が発行されることがあります。
円錐角膜で受けられる支援(障害者総合支援法)
円錐角膜は、2015年7月から障害者総合支援法の対象疾患となりました。これにより、条件を満たす場合にコンタクトレンズが補装具として支給されることがあります。支給対象となるかどうかの判断は、お住まいの自治体によって異なります。
申請に当たっては医師の意見書などが必要となりますので、申請をお考えの方は、まずは主治医の先生とよく相談することをおすすめします。
まとめ
以上、円錐角膜と身体障害者手帳について、また円錐角膜で受けられる公的支援について簡単に解説いたしました。受けられる公的支援については、お住まいの市区町村によって内容が異なることがありますので、詳しくは市区町村までお問い合わせください。
先進会眼科では、新しい機器と患者様に向き合ってきた経験を活かし、円錐角膜であるかどうか、また円錐角膜である場合はその程度を正確に診断し、身体障害者手帳の申請が可能かどうかなどを含め、適切な治療をご提案いたします。最寄りの眼科の対応に不安をお持ちの方は、ぜひ一度当院にご相談ください。
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日本眼科学会認定眼科専門医
日本白内障屈折矯正手術学会 理事
先進会眼科 理事長
略歴
聖マリア病院 眼科 外来医長
福岡大学筑紫病院 眼科
村上華林堂病院 眼科
福岡大学病院 救急救命センター
福岡大学病院 眼科
愛知医科大学卒業
福岡県立嘉穂高校卒業
医師資格番号
医師免許番号 381664
保険医登録番号 福医29357